大きな大きなせんだんの木の下で。

「あ〜ここ涼しい・・・」
「ちょっと乾、あんまり寄ってこないでよ暑いんだから」
「まったくだ。夏場は近寄りたくないな」
「・・・お前ら、さりげなく酷いぞ」

聴覚の麻痺しそうな蝉の鳴き声の中。
じりじりと照りつける日差しを避けて、乾と手塚と不二は木陰に入って涼んでいた。

「今日の最高気温は30度を超えるらしいな・・・」
「うわ〜、暑いはずだね」
腰を下ろして頭上を見上げると、木漏れ日が目に眩しい。
美しい光景ともいえるが、この暑さでは更に暑さを感じさせるだけになりそうだ。
「真夏日だね・・・」

空は快晴。文句の付けようもないほどの青空に、暑い日差し。

「いー天気・・・」
一枚葉をちぎって、ふっと風に流す。
「気持ちいい・・・」
木の幹に背を預けて目を閉じる不二に、手塚も乾も倣って座り込んだ。
「ちょっと、乾こっち側来ないでよ、そっちそっち」
「おいそこに座るな、こっち側に来い」
手塚も不二も乾を押しのける。
「なんで二人とも俺をそんなに邪険にするかな!」
「「背が高いから暑苦しい」」
きっちりユニゾンした手塚と不二の声に、乾はハァとため息をついた。

結局乾を真ん中にして、三人で並んで木陰に腰を下ろす。
「あっという間だね、なんか」
不二のつぶやきに、乾と手塚が振り返る。
「全国目指してずっとやってきて、もうすぐなんだね」
「たしかに・・・」
「もっと緊張するかと思ったんだけど、不思議とそうでもないんだよね」
「たしかにな」
手塚が頷く。
「ね?自分でも不思議なんだけど、すごく落ち着いてるんだ。全然負ける気がしない」
「ようやくここまで来た、という気持ちだけだな」
「後はもう勝つだけだよね」
「俺たちなら出来る」
「そう、絶対勝てる」

顔を見合わせて笑いあっている二人に、間に挟まれている乾はやれやれと眼鏡を押し上げた。

「大物だよ、お前らは」


さらさらと八月の風が頬をなでていく。

からっと晴れた青い空、蝉の声。そして、フェンスの向こうの決戦の場。


ようやく辿りついた、最終局面。

「そう、後は勝つだけだ」




■ □ ■



「大石あれ見て!海堂のヤツまだ走ってる!」
「ああ、ホントだ。桃の奴も向こうで汗だくになってたしな」
「アップしすぎました、体力残ってません、ってなことにならなきゃいいんだけど」
「そういえば越前の姿もないけど?」
「向こうでファンタ飲んでたよ、おチビは相変わらず」
「みんなそれぞれ精神統一してるんだな」

一、二年生が張り切る中で、内側に静かな情熱を燃やしているのは三年生たちだ。

ようやくここまで来た。その思いは、誰より強い。

「あー!!乾たち発見!」
「ありゃりゃ、何やってるんだ?あいつら」

大きな木の下。
大石と菊丸が木陰に向かって歩いていくと、三人が並んですやすやと寝息を立てている。

手塚は乾の肩に頭を乗せて、不二にいたっては乾の太腿を枕にしている。
二人に体重をかけられている真ん中の乾は少し苦しそうに、しかし穏やかな寝息を立てていた。

「・・・余裕っつーか、呑気っつーか」
「ホント大物だよな、こいつら」



全国大会決勝戦開始のホイッスルがなるまで、あと三十分というところである。







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