「ああ、そう言えばそんなこともあったな」
「爺臭いこと言うなよ、手塚。覚えてなかったのか?」

手にはそれぞれ、パック牛乳ではないが、缶ジュース。
窓際の教員用の机に腰掛けている不二。ブラインド越しに照らす夕映え。

何もかも、あの時と同じだ。
三人での付き合いも長いと思う。部活で絶えず会っているばかりか、信頼するチームメイトでもあると同時に互いの実力を認めたライバルでもあるのだから、絆が強くなるのも当然のことか。
わずか二年。されど二年だ。気がつけば時間は過ぎた。今日の自分達をも飲み込んでしまいそうな夕焼けも、まるで何かの終わりの象徴のようだ。

この夏が終われば、テニス部での時間も終わりを告げる。

三人の関係も、親友とも悪友ともライバルともつかぬ関係を続けながら、この二年で確かに変化していった。

「・・・お前らが付き合いだしたのは秋頃だったか」
「う〜ん、友達以上恋人未満の時期が長かったからね。どこからカウントしていいのか」
「・・・それ以前に何故知っているんだ、乾」
「そりゃ分かるさ。伊達にデータマンと呼ばれちゃいない」

いや、本当は違う。それ以前に――。

乾は思い返した。

二年前、自分が放課後誰もいない部室で言い争う二人を目撃したとき。

“お前の実力が見たい”

自分が見た、あのときから。もう手塚と不二は特別だったのだ。


手塚と不二が互いに意識しあうきっかけ、他の誰も入り込めないと思わせる、二人独特の空気が生まれたのもあれが始まりだった。

圧倒的な存在感が、最初から示していた。

手塚と不二。この二人をずっと追いかけているという自負のある自分でも、入り込めない領域がある。


不二がゆっくりとブラインドを引いた。 部屋中がオレンジ色に満ちる。窓際の不二も、隣に立つ手塚も、みんなオレンジ色に呑み込まれる。

それは日が沈み、やがて夜が来るまでの間の一瞬だけの。

刹那の美しさだった。








日もすっかり暮れて、教室内を薄闇が侵食し出した頃。
「そろそろ行こうか」
立ち上がったのは不二だった。軽くない、しかし決して苦痛ではない沈黙が解かれる。
「ああ、そろそろ会議も終わる頃だ」
「また同じようにやっていくか?」
顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
目立つところに置いた三者三様の空き缶。侵入の証しだ。
鍵を閉めなおすこともなく、悪戯に笑いあいながら三人は生徒指導室を後にした。


二年前と同じ。何もかも同じ。

それでも。

手塚と不二が恋人同士になったように。
何も、変化せずにはいられない。


少しずつ、確かに時間は動いているのだと、空にほんのり浮かぶ夕月を見ながら思った。







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