「3、2、1・・・」

大晦日。
新年の訪れを、手塚が傍らの時計の秒針を見ながらカウントする。

「ゼロ」

同時に不二は送信ボタンを押した。
「はい、送信完了〜」
鼻歌交じりに机から離れると、ベッドに座っている手塚のところまで歩いてくる。
シャツを一枚羽織っただけの格好で。
「終わったか?」
「うん。カウントありがと。どうせなら十二時丁度に送りたかったから」

時計は“0:00”をさしている。
大晦日から元旦になったのだ。

「あけましておめでとう」
「ああ、今年もよろしく」
どこか今更の挨拶を、少しだけ照れながら口にする。
ひざに乗って背中に腕を回してくる不二を受け止めながら、手塚はシャツに覆われていない胸から腹をふと手でさすってみた。
「うわっ!なに?!」
「いや、冷えているなと思って」
「はは・・・」
(そりゃさっきは熱かったさ、誰かさんのおかげで)
何事かと飛び上がった自分が少し悔しくて、驚かされた仕返しとぎゅっと手塚の首にしがみついた。
「ま、でも確かに寒いかも。いれて」
布団をめくって、ごそごそともぐりこむ。当然のように手塚にしがみついたままで。
しっかり抱き合う格好でベッドに入って、手塚はゆっくりと忍び寄る睡魔を感じながら傍らのライトの明かりを落とした。

「・・・誰へのメールだったんだ?」
よくぞ聞いてくれました、とばかりに不二はニヤリと笑った。
「乾。実はね、英二も今ごろ乾のところに電話してるはずだよ。独り者のところに電話して景気づけてやるって言ってたから」
・・・暇な奴らだ。
手塚は呆れた顔でため息をついた。
「ほら、英二の家ご兄弟多いでしょ?まだみんな当然起きてるし、大石と二人きりってわけにはいかないんだよ」
そういえば大石は大晦日から菊丸の家に泊まりに行くと言ってたか、と手塚は思い出す。 品行方正、加えて真面目でお人よしの彼は、菊丸家のご家族から大変人気があるのだ。 それではまだまだ放してくれないだろう。菊丸もやけになって酔っ払ってでもいるのではないか。
親友でもある副部長の苦労を思いつつ、手塚はふと乾のことを考えた。

「・・・あいつの家は今日も静かだろうな」
名前を出さずとも、不二にも通じた。
「元日も帰れないなんて、本当に忙しいんだね、ご両親」
「だからメールを送ったのか?」
「ん――・・・内容はいたって普通なんだけどね」
本当に普通なんだけど、と不二は苦笑しながら額に掛かる髪の毛をかき上げた。

新年も、いつも通りつつがなく過ぎていく。くるまった布団のぬくもりに、ゆるやかに眠気が近づいてくる。

「・・・ねえ」
「もう寝ろ・・・」
「最後だね、今年で」

今年、自分たちは最上級生になる。

「・・・そうだな」

何も変わっていないようで、確かに動いている、時間。

「気が変わった。やっぱり起きよう」
布団を跳ね除け、不二は手探りで携帯電話を探し始めた。何となくやりたいことが分かった手塚は、嘆息して電気をつけてやる。

表示されたのは、予想通りの友人の名前。

「・・・もしもし、乾?あけましておめでとう。うん、手塚もいるよ、換わる?え〜遠慮しないで。あのさ、明日ヒマ?初詣行こうよ、初詣。うん――・・・」


おめでたい日は、やっぱりおめでたく迎えなければ。

貴重な一日一日を、大切に。




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