「・・・で、何だその有様は」

怒っているというよりは呆れてものも言いたくないという様子の手塚に、対する二人はまったく悪びれず涼しい顔だった。

「だって、ね?乾」
「急に雨に降ってこられて、傘もないから困ったんだよ。それで、お前の家が一番近かったから」

ねぇ?と顔を見合わせる二人に、手塚の額にびきっと血管が浮かび上がる。

「そうじゃなくて、その怪我はどうしたと聞いているんだ!何をやってたんだお前らは!!」




突然降り出した雨に、思わず駆け出した乾と不二の脳裏に真っ先に浮かんだのは、手塚の顔だった。

(一番近かった、というのも確かにそうだけど・・・)
単に、二人とも手塚の顔が見たかったのかもしれない。

手塚に会って、何をしていたんだと怒鳴られて、いつもの自分に戻りたかっただけなのかもしれない。

「まったく・・・」

額に手をやってため息をつきながらも、手塚は二人を自室に連れて行くとタオルと救急箱を持ってきた。

「風邪をひくから着替えろ、二人とも。俺の服しかないがな」

「・・・ごめんね、迷惑かけて」

不二が、しおらしげな声を出した。
先ほど、路地裏で感じたような刺々しい雰囲気はすっかり影を潜めて、いつもの笑顔になっている。

「・・・・・・」

そんな不二を眉をひそめて見詰めていた手塚は、一つ息を吐くと、ぼすっとタオルを頭に載せた。

「顔が腫れている。氷のうを作ってくるから、その間に体を拭いて着がえていろ」

それだけ言うと、さっさと部屋を出て行った。



手塚は、何があったか察しているのかもしれない。
少しだけ不安定になっている不二に気がついているのかもしれない。

けれど、こちらから言うまで尋ねる気もないのだろう。




「不二・・・」

「ん?」

乾はゴソゴソとズボンのポケットを漁った。

出てきたのは、小さな錠剤。

「それって・・・」

水も飲まずに、コクリと飲み込む。

「やってらんなくなる時って、誰しもあることだよ、不二」

眼鏡の奥で、穏やかな瞳が笑っている。

「薬も、いかにも病弱そうで繊細そうな奴だけのものじゃないのと一緒」
「乾、どこか悪かったの?」

勢いで尋ねた不二の表情に後悔の色が浮かぶ。
聞いてはいけない領域だったのか、と。
そうじゃないよ、と乾は軽く笑って、自分の胸を指差した。

「どっちかといえば、コッチの問題」

話の内容とは裏腹に、乾はにっと口角を上げてみせる。

「・・・そういえば大石も、胃薬飲んでたっけ」
「あ〜あいつは重症だよな、ハゲやしないかと心配だ」
「まぁ今でも十分野球部に間違えられるけどね」
「それ酷いぞ、お前」


冗談に流して。軽口の応酬に、お互い笑みが浮かぶ。


大丈夫、もういつも通りだと。




「・・・着替えろと言っただろうが。練習休ませるぞお前ら」

怒りを通り越してあきれ返ったような声がした。

氷のうとコーヒーを持って、手塚が立っている。
「あ、ありがと手塚」
途端に柔らかい表情になった不二は手塚に飛びついた。
何の掛け値もない笑顔で。

「手塚あったかい〜」
「うわっ!こら危ないぞ不二」
飛びつかれた手塚がよろけた。盆に載せられたコーヒーが傾く。

「うわ、ちょ、こぼれるって、危ない!」
乾が慌てて支えようと立ち上がる。
「ちょっと乾、手塚にくっつきすぎ」
「こら、押すな不二、マジで危ないって・・・あ、ああーっ!」

ばらばらっと三人ともが、床にしりもちをつく羽目となる。







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