「で、何でこうなるんだ」
手塚の、怒りを含んだ声もなんのその。

「だって、ね?」
「仕方ないだろ、手塚」
小悪魔二匹。
茶色い髪と、ドリアン頭。

客室なんて上等のものはなく、滅多に帰らない両親の寝室ぐらいしか、他に休むところはなかったのだが。
乾の自室の隣の彼の両親の寝室は、此処何年も使われていないダブルベッドである。

「それじゃお二人さん、おやすみ。俺の部屋のデータを漁らないように」
「気を使ってくれてありがと。めくるめく二人の時間を堪能させてもらうよ」
「ああ、楽しんでくれ。隣の部屋で俺が寝てることを忘れないぐらいには」
低俗な軽口の応酬を、手塚が断ち切った。
「だからちょっと待て!何でそうなるんだ」

寝る部屋は、乾の自室とご両親の寝室の二つ。
そこで乾が出した案は、手塚と不二が乾の寝室で寝て、自分は両親の寝室で寝るということ。
乾のベッドはシングルサイズ。ご両親のベッドはダブルサイズである。
「普通逆じゃないのか・・・」
乾のベッドで不二と寝ることを提案された手塚は、珍しくも顔をいささか赤くして額を抑えている。
「あのね、手塚。仮にも俺の親のベッドだよ?殆ど使われてないとはいえ、友人が不埒なことに及んだなんて事態になったら俺は親になんて詫びればいいんだ」
「及ぶか!大体、お前自分のベッドならいいのか」
「俺のベッドだと思えばそんな気も起きないだろ。まさか余計に興奮したりなんて・・・」
「するかっ!!」
いよいよ手塚はユデダコ並みに赤くなっている。う〜ん、珍しいものが見えた、と乾はほくそえんだ。
「乾、あんまり手塚をいじめないでよね」
自分だって散々腹を抱えて笑った後、不二が目じりの涙を拭いながら乾の肩を叩いた。
「ま、とにかくそういうことで。多少窮屈でも我慢しなさい」
そんな言葉を置き土産に、乾は二人を自室に押し込めぱたりとドアを閉める。

(さて・・・どうするかな)
数秒ためらった後、乾はゆっくりと両親の寝室の扉を開けた。
数年使われてないだけあって、叩けば埃が飛びそうだ。それも二人を此処で寝かせられない理由だったのだが。

ベッドカバーをゆっくりと指で辿る。
最後に使われて以来、一度も取り替えていない。掃除もしていない。
その最後がいつだったか、乾はあえて記憶を辿ることはしない。


いつごろからか、両親とも仕事の忙しさを理由にほとんど家に帰らなくなった。普通なら夫婦仲もうまくいかなくなるところだろうが、両親とも仕事人間のためこれで釣り合いが取れているのだろうと乾は推察していた。

寂しいと思うことはない。うるさい親に始終構われるより、自由なほうが気楽でいいに決まっている。こうして友人が来たときも、すんなり泊めることも出来るし。

ただ、ただ―――


乾は毛布を一枚取ると、両親の寝室を出てリビングに向かった。
そのまま、最初に寝かしつけられていたソファにごろっと横になる。

あの親の寝室で、自分が寝るのも、手塚と不二を寝かすのも嫌だった。
最後に彼らが使った気配はとうに消えていたとしても、どうしようもない不快さが胸から消えなかった。




乾がゆるゆると眠りにつこうという頃。

キィ、と扉が開く音がした。

「・・・仕方がない病人だね」
不二、だからお前が、そんな顔をする必要はないだろ。
「・・・寝ろって」
「病人を放っておいて、ベッドで寝られるか。ほら歩け、部屋に行くぞ」
お前の、部屋に。
「いいよ・・・お前ら寝るとこ無くなるだろ」
まだ寝ぼけ眼で、うまく喋れないのがもどかしい。
「ほら」
有無を言わせぬ響きに、乾は大人しく従った。
自分のベッドに押し込められ、限界に達していた疲労でそのまま眠りについてしまう。

(まったく・・・お前ら)



「乾、寝たかな」
「・・・そのようだな」
手塚と不二は、毛布を一枚取ってリビングに戻る。
「あそこにいてあげたいね・・・」
「仕方がない。風邪がうつったら、それこそ後で何を言われるか分からん」

明日になったら、またいつも通りの彼であるように。

そんなことを思いながら、二人はソファで毛布に包まった。







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